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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)112号 判決 1970年7月16日

当事者 上告人 関東信越国税局長 江口健司

右指定代理人 川島一郎<ほか四名>

被上告人 東光商事株式会社 右代表者代表取締役 片岡千代壱

右訴訟代理人弁護士 真野毅

山口信夫

鈴木富七郎

阿南主税

滝沢寿一

主文

第一、二審における上告人敗訴部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

前項の破棄・取消部分に関する被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人川島一郎、同青木康、同村田良郎、同福山正衛、同柴崎堆および同徳永輝夫名義の上告理由について

原審の引用する第一審判決の確定するところによれば、被上告会社は、金融業その他を営業目的とする株式会社で、昭和二六年頃からいわゆる株主相互金融の方式による金融業を営むようになったが、その具体的内容は次のようなものであったというのである。

被上告会社は、貸付金の資金調達の方法として新株式を発行し、これを同会社の役員等の縁故者に引き受けさせ、その払込金は、主として、同会社より引受人に対する貸付金によって充当された。かくして縁故者の取得した株式の譲渡を被上告会社が斡旋し、同会社名義で買受希望者を募集したが、その際、株式の買受代金の支払については、均等割による日払、月払の方法を認め、この場合には、被上告会社が買受代金を一時立て替えるという形式がとられた。そして、株式の買受人が代金を完済したときは、被上告会社からその株式の額面金額の融資を受けることができるものとされた。しかして、買受代金を完済して株主となった者が右の融資を希望しないときは、被上告会社は、(一)株主の希望により株式の転売を斡旋し、転買人が決まるまで同会社において転売代金を立て替えて支払い、その際、右に付加して、前記の日払または月払の期間に応じて、年九分ないし一割の奨励金名義の金員を支払い、(二)株主が株式の転売を希望しないで六ヵ月または一年間株主であることを持続するときは、優待金等の名義で、年一割ないし一割三分の金員を支払った。以上の場合に、譲渡の斡旋は一〇〇株または二〇〇株単位で行なわれ、譲渡価額はつねに額面金額によるものとされた。なお、新株の引受は、被上告会社の役員等の縁故者が主として同会社からの借入金によって払い込むため、新株の引受によっては、実質的に会社資金は調達されず、株式買受人の支払う株式代金によって、被上告会社が右の縁故者(引受人)から貸付金の返済を受けたときに、はじめて資金調達の目的を達し得る関係にあった。

以上のような確定事実に基づいて、原審は、前記の株主相互金融方式による株式の売買代金を実質的に取得する者は被上告会社であり、その株式取得者は、株主となると同時に、被上告会社によって株式の再譲渡による株式売買代金(券面額)の回収と株式所有持続期間に応じた株主優待金の支払とが約束されるのであるから、実質的にみれば、被上告会社が、株式を譲渡担保として、消費貸借ないし消費寄託により株式取得者から株式代金相当額を取得する場合と異ならず、代金が元本に、株主優待金が利息に該当するものということができるとし(原審引用の第一審判決は、この関係を、経済的・実質的に見るかぎり、株主優待金は金融機関の預金利子と異ならない、と表現する)、右消費貸借ないし消費寄託の場合においても、債権者即株主であり、右利息が株主たる地位について支払われるのではなく、債権者たる地位について支払われるものであることが明らかであるとして、本件株主優待金は、被上告会社の所得の計算上その全部を損金として取り扱うべきものとするのである。

しかし、かりに経済的・実質的にみれば、本件株主優待金が原審説示のような性質を有するとしても、その関係を法律的にみれば、前記の株主が被上告会社に支払うのは株式買受代金にほかならず、しかも、これのみに限られるのであって、右の株式買受代金が、同時に、被上告会社に対する消費貸借ないし消費寄託の目的となることはあり得ない。たとえ、被上告会社の新株発行に特異のものが認められるにもせよ、新株の買受人による買受代金の払込みにより、株金相当額が受け入れられて被上告会社は自己資本を増加し、増資の方法による資金調達の目的が達成されるのであって、かかる新株の発行を当然無効のものということはできず、株式買受人が取得するのは株主の地位以外のものではない。したがって、原判決が、実質的にみれば、株式買受代金が買受人と被上告会社との間の消費貸借ないし消費寄託における元本に、株主優待金がその利息に該当するというのは、前記の新株発行により有効に成立した法律状態を無視するものといわなければならない。

これを要するに、株式買受人が被上告会社から融資を受けるのも、また、株主優待金の支払を受けるのも、すべて、同会社の株主として享受しうるところであって、このように、被上告会社から株主たる地位にある者に対し、株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、被上告会社に利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これを被上告会社の損金に算入することは許されない。この理は、すでに、当裁判所昭和三六年(オ)第九四四号同四三年一一月一三日大法廷判決(民集二二巻一二号二四四九頁)の判示するところである。したがって、被上告会社の所得計算上、株主優待金を損金に算入すべきものとした第一審判決およびこれを維持した原判決は、法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条一項の解釈適用を誤った違法あるものというべく、論旨は理由がある。

よって、第一、二審における上告人敗訴部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消すべきものとし、右の破棄・取消部分においては、係争の各事業年度の更正処分に関する審査決定について、本件株主優待金の損金算入の許否以外には、金額その他に関し争いはないものと認められるので、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条により、右の破棄・取消部分に関する被上告会社の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

上告指定代理人川島一郎、同青木康、同徳永輝夫、同村田良郎、同福山正衛、同柴崎堆の上告理由

原判決は、本件株主優待金の給付が資本等取引にあたらず、したがって、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条一項にいうところの総損金を構成する旨判断したことは同法同条項の解釈および適用を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

以下その理由を説明することとする。

原判決は、株式取得者と被上告会社(第一審原告)との関係を「実質的にみれば、第一審原告が、株式を譲渡担保として、消費貸借ないし消費寄託により株式取得者から株式代金相当額を取得する場合と異ならず、代金が元本、株主優待金が利息に該当するものということができる。」と判示するけれども、なるほど、被上告会社が株主相互金融方式によるものとして、新株を発行し、それを自己の縁故者(以下・「本件縁故者」という)に引受けさせ、その払込金は主として被上告会社より右引受人に対する貸付金によって充当され、右本件縁故者は、その株式を、さらに前記株式取得者(以下・「本件株式取得者」という)に売却し、その売却代金を得て右貸付債務の弁済にあてる(本件一審判決理由四、「本件株主優待金の実態」参照)という一連の行為をみれば、本件株式取得者によって出捐された金員は、本件縁故者を経て被上告会社に経済的に帰する結果となり、結局、被上告会社が直接、本件株式取得者から金員を受取ったのと同様の結果となり、このようにして株主となった者は株式代金の回収と株式所有期間に対応する株主優待金の支払が約束されるのであるから、株主の立場から見れば、消費貸借ないしは、消費寄託に類似した経済的効用をも有しているということはできよう。しかし、それだからといって被上告会社との間に消費貸借ないし、消費寄託が成立するものではない。本件縁故者に対する金員の交付が一方では株式売買代金となり、同時に被上告会社に対する消費貸借ないしは消費寄託の目的となるということは論理的に成立する余地がない。原判決が「実質的にみれば」というのは経済的効用に着目されたのであろうが、類似の経済的成果(例えば、資金調達)をおさめる法律上の手段として、甲(例えば新株発行)、乙(例えば消費寄託)二つが存在する場合において、それらによってもたらされる経済的なものが自己資本と他人資本との違いといった程度の違いを残して類似しているとしても、それだからといって、税法の上で直ちに両者を同視して取扱うことはできない。

本件の場合、被上告会社は資金調達の方法として、決して、消費貸借ないし消費寄託によったものではなく、むしろ、それを捨てて新株の発行にあくまでもよったものである。そして本件株式取得者に対する株主優待金の制度は、右資金調達を容易ならしめるために特典として株式関係にプラスしたものなのである。また、本件株式取得者の方も前記出捐をなすときの意思は、決して、出捐金をもって消費貸借ないし消費寄託の要素にするというところなく、あくまでも前記特典付の前記株式の取得代金にあてようとするところにあったとみざるを得ないのである。

なお、右のように、出捐の目的が株式取得にあると見る以上、右株式取得が譲渡担保に当らないことは多言を要しない。

以上の次第であるから、被上告会社と本件株式取得者との関係について原判決のもちいた比喩は、まずその根本において誤りをおかしているものといわざるを得ないのである。

従って、本件株式取得者の出捐した株式代金が元本に、また本件株式取得者が被上告会社から取得した株式優待金が利息に該当するとの見方にも賛成することができない。

原判決は、被上告会社と本件株式取得者との関係を、右のように消費貸借ないし消費寄託の関係とみる立場に立って、「債権者即株主であり、債権者であり、株主である間は、利息が支払われ、債権譲渡ないし債権の弁済により債権者でなくなれば同時に株主でもなくなり、利息は支払われなくなり、結局株主である間だけ利息が支払われることになるが、右利息が株式たる地位について支払われるのではなく債権者たる地位について支払われるものであることは、明らかであり」と本件株式取得者を消費貸借ないし消費寄託上の債権者にみたてて、説明しているけれども、既に述べたように消費貸借ないし消費寄託の関係とみることができない以上この説明もまた無意味なものに帰着するわけである。

原判決はさらに「株式優待金が株主たる地位について支払われるのではなく株式の買主たる地位について支払われる。」のであるという。このように「株主たる地位」と「株式の買主たる地位」とわけてみても「株式の買主たる地位」は結局「株主たる地位」になるのであって、原判決のこの点の説明も納得できない。

以上において、原判決が本件株主優待金を消費貸借ないし消費寄託における利子と同視したことに承服できない所以を述べたが、次にすすんで本株主優待金の給付が利益の処分にあたり、それは被上告会社の純資産減少の原因となるべき事情ではあるけれども所得計算上損金を構成しない理由を明らかにすることにしたい。

本件一審判決も原判決も、損金とならない利益処分とは、法人が決算ののち行なう形式的な利益処分に限られるものと解すべきでなく、形式的には利益処分の形をとっていなくとも、事情により、実質上の利益処分として取り扱いうる場合のあることは、これを承認しながらも、本件の場合はこれに当らないという。その論旨は、要するに、株主に対し会社財産を損金の形式で無償で供与したことが、経済的実質的に考察した場合に必ずしも不合理と認められない理由に基づくものと認められる場合は、その損金性を否定することはできないというにある。このような論旨に立って、本件一審判決も原判決も、被上告会社における本件優待金の支払は、株主に対し会社財産を無償で供与して行なわれたが、経済的実質的に考察した場合借入金の利子の支払に類した合理性を有するもので、損金と認めるべき旨判断するが、被上告会社が資金調達の方式として消費貸借ないし消費寄託の途を選ばず、新株発行の途を選んだ以上本件優待金の支払をもって、利子とみるわけにはいかないのであって、あくまでも新株発行による増資、すなわち出資を理由とする報償と見ざるを得ないのである。

このような株式取得者に対する利益の供与は、相手方が出資者たる地位にあることを理由になされる無償の経済的利益の供与である点について損金性を有しない。ただ、本件株主優待金の給付は、その額がその都度定額であり、利益配当の方は給付の都度変動するという差異はあるけれども、そのような差異をもって両者の本質上の差異とみることはできない。

現在の法人税法上の所得は、資本主の計算における法人資産の増加として把握されているのであるから、法人から資本主に対して無償で供与された利益はすべて所得の処分と見るべきものである。もし、法人が資本主に対して利益の有無にかかわらず、一定の金額を無償で供与するとの約束をしたという理由でこれに基づいて支払ったものを損金に計上することが許容されるものとすれば、不当に法人税の負担を免がれる結果となることは明らかである。なんとなれば、このような約束に基づいて支払われる金額は資本主に配当さるべき利益ないしは分配さるべき残余財産の額を減少させることとなるからである。いま、ある会社が安定配当を見越し、予想配当額についてこのような約束をし、株主に対する支払額を損金に計上する場合を想定すれば、この関係は明らかであろう。原判決は、本件株主優待金の経済的効果が支払利子に類似する点があるということにとらわれ、法人所得の根本的観念の上における本質的な差異を無視したものであって誤っている。

なお、第一審判決を引用する原判決は、本件株主優待金の給付は会社資金の調達を円滑ならしめる効果をもつとみるところから、その損金性を肯定するかのようであるが、しかしそれだからといって直ちに、損金性を肯定するのは妥当ではない。典型的な利益処分たる利益配当といえどもそのような効果をもちうるのであって、例えば、高配当は、出資者を呼び増資による資金調達を容易ならしめる。しかしそれだからといって、それを損金とみることはできない。同様、株主優待金の給付が資金調達円滑化の機能をもったとしても、損金とみなければならない必然性もないわけである。

以上述べたとおり、原判決は旧法人税法九条一項における総損金の意義を誤って解釈した上で同条項を本件に適用した違法があるから、上告人は原判決の破棄を求めて上告に及んだ次第である。

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